6・続
絵本が
見つかった
「ゆめうりポンチ」1965年5月 |
そこへ遅刻の司書探偵Aがにこやかに登場。「遅いなあ。もう結論がでたよ」との声に……。
■司書探偵A
いやいや、新発見です。都立図書館の蔵書検索で見つかりましたよ。多摩図書館にありました。
『ゆめうりポンチ』三町半左著 岩崎書店 ポニーブックス 昭和40年。
これは絵本ですね。このシリーズは、柳原良平、真鍋博、やなせたかし、園山俊二などが描いている。奥付のコピーを取り寄せてもらったんですが、どうです、1928年、埼玉県に生まれる。1952年から漫画を描き始める。現住所、所沢市…。大発見でしょう。白土三平でないことが証明されました。そして昭和40年にかれは、岩崎書店の絵本を描いていた。多摩図書館には昭和27〜29年の『小学六年生』の一部が保存されているので調べればデビュー作が分かるかもしれない。
■漫画探偵B
これは大発見ですね。しかも絵が別人のようにがらりと変化している。もうひとりの写楽の登場ですね。そしてこの絵には既視感がある。どうしてだろう。もしかしてこの後、ペンネームを変えて活躍しているかもしれない。
「ゆめうりポンチ」 |
■ネット探偵C
ちょっと待って。いま思いだしたが、ネットの検索で「ラッキーパンダ」というのがあってね。所沢市でラッキーパンダというぬいぐるみのパンダがあちこちに出没するという楽しいページだった。その仕掛け人のプロフィールに「赤塚不二夫、三町半左、横山隆一各氏に多大な影響を受けた」とあった。なにげなく見過ごしていたが、どちらも所沢…。これはなにか関係がありそうだね。
という訳で、ラッキーパンダのプロデューサー双団平氏の横顔。
19××年、所沢に生まれる。物心ついた頃より、漫画や絵に興味を持ち始め、活動を続けてきた。青い鳥打帽がトレードマークになっている。「ゆめうりラッキーパンダ」(市民新聞)など。
■漫画探偵B
この「ゆめうり」という言葉に引っかかるね。三町半左も「ゆめうりポンチ」。「ゆめうり」は漫画や絵本の世界ではありふれた言葉なのだろうか。町名も同じ。番地はちがうが、住居表示での変更も考えられる。もしかしたら親子。あるいは師弟関係かもしれない。これは双団平氏にメールを出してみよう。
7・完
少年の頃の夢は
そのままに
双団平氏の自画像。所沢市の名物「ラッキーパンダ」の仕掛け人。 |
双団平「ラッキーパンダ」は所沢市の日刊新民報、市民新聞などに連載中。 |
双団平氏からいただいたメール。
返信その1
――双氏は、三町半左のゆかりの人では? もしかしたらご子息? あるいは師弟関係?
さっそくですが、ご指摘のとおり私は三町半左の甥にあたります。また、漫画というより人生においての師匠として多大な影響を受け、今日の私が存在するものと思っております。
――この予想は的中する予感がします。
おそれいりました。(笑)
――ついては、三町半左に関してご存知のことをお教え願えないでしょうか。
当時、三町師匠は体調を崩し、漫画の生業を断念したと聞いております。
また現在は、地元埼玉県内にて今の職務を元気一杯まっとうしております。
なんと、三町半左氏は埼玉県でご健在であることが分かった。まぼろしの漫画家を追う企画は大団円を迎えたのである。
返信その2
――双さま。さっそくご返事をいただきありがとうございます。
――三町半左氏がご健在とのこと、まことに嬉しいです。たしか73〜74歳のはず。私にとっては半世紀前の憧れの人……。ありがとうございます。
いえいえどういたしまして。
――氏の経歴をもう少し知りたいのですが…。
この件につきましては、私の方からお答えさせていただきます。三町半左と白土三平は、同一人物ではありません。
ー―馬が疾走する場面が多いのはなぜ?
何気に三町師匠に聞いたところ、
「当時僕は、原稿ばかり描いていてほとんど毎日、外に出ることができなかった。だから、おもっいきり走りてえなぁ〜、などと思っているうちに、あの様な絵が多くなったのかもしれない」
とのことでした。(笑)
また、三町師匠にあなたの話しをしましたところ、「少年の頃の夢は、そのままそおっとしておいた方が良いのではないかな…」との返事でした。お役にたてなくて申し訳ございません。
こうしてインターネットによる探偵ごっこは終わった。
依頼人N氏には、三町半左氏が健在というニュースと15冊の漫画本が宝物として残った。
その後しばらくして、依頼人N氏から3人の探偵にこんな話しがあった。
「ある日、高速神戸駅のホームで電車を待っていたとき、目の前の神戸市民生協の広告看板が目に入ったんだけどね。そのイラストが三町半左なんだよ。これは断言できる」
もはや3人の探偵は取り合わなかった。
まんが界の写楽伝説は終わったのだ。しかし念のためにN氏のいう三町半左作品の写真を掲げておこう(もちろん三町半左の作品ではない)。
★P5